- ×かなめ
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「それじゃあいつみ、始めちゃいましょ。
調整は啓人くんがやってくれるから」
- ×いつみ
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「ぁ……はい」
- ×いつみ
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「……よろしくお願い……します、永倉くん」
- ×啓人
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「ぁ……うん。何かあったら、遠慮なく言って……ください」
- ×
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ぎこちなさを残したまま、瀬能さんは小夏と交代して
ブースへと入る。
- ×啓人
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「では、ランプが光ったらお願いします」
- ×いつみ
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「よろしくお願いします」
- ×いつみ
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「……おはようございます、ご主人様。
今日は清々しい秋晴れですよ」
- ×
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いつみさんから受け取った台本は、
富豪の少年付きのメイドさん役。
- ×
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紙資料に描かれていたデザインは奇麗めのお姉さんで、
瀬能さんの実際のイメージともリンクしそうな雰囲気があった。
- ×小夏
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「……ふぉおおぉおお……!
見えるよ! 見目麗しいメイドさんが見える!」
- ×
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ようやく平静を取り戻した小夏は、間近で見るプロの芝居に
感動していた。
- ×いつみ
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「それでは、お着替えをいたしましょう。
こちらにいらしてくださいませ」
- ×いつみ
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「……あらあら、ネクタイが曲がっていらっしゃいますよ。
失礼いたします……んぅ……はい。これで大丈夫ですわ」
- ×啓人
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「…………」
- ×
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瀬能さんの姿を見ながら瀬能さんの声を聞き、
普段の瀬能さんとは全く違うキャラを脳内に想い描く――
- ×
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これはとっても良いものですネ。
- ×かなめ
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「啓人くん。どう思う?」
- ×啓人
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「どうって、やっぱり上手ですよね。小夏とは格が違う」
- ×
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かなめさんに唐突に意見を求められた。
- ×
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トークバックのスイッチは押していないので、
この声は瀬能さんには聞こえていない。
- ×小夏
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「プロの声優さんと比較して妹をディスるのは
家族としてどうかと思うよ?」
- ×啓人
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「芝居に関しては、どうしようもないだろう?
瀬能さんとお前じゃ、キャリアが違いすぎるんだから」
- ×小夏
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「それはそうだけど~」
- ×かなめ
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「質問を変えるわね。啓人くんだったらこの役、
いつみと小夏ちゃん、どちらに任せる?」
- ×啓人
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「そんなの瀬能さんに決まってるじゃないですか。
こんなに上手いんですもん」
- ×かなめ
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「……確かに芝居は出来てると思うわ、いつみは」
- ×かなめ
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「でも、芝居の上手い子なんていくらでもいるもの。
あの子自身、もう一歩抜け出さないといけないのよね……」
- ×啓人
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「…………」
- ×
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『一歩抜け出さないといけない』か。
- ×いつみ
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「はぁぁ……や~っと行ったか……あぁ~ダリぃ。
メシ食ってガチャ回してとっとと寝っかぁぁ……」
- ×
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……とりあえずこのメイドさんは抜け出しすぎだろ。